
ISO29990
ISO29990(LSMS:学習サービスマネジメントシステム)の概要
1.はじめに
ISO29990:2010(非公式教育訓練における学習サービス-サービス事業者向け基本的要求事項)とは、学習サービス事業者 及び その顧客を対象とした、学習サービスマネジメントシステム(LSMS:Learning Service Management System)に関する国際規格で、非公式教育・訓練、人材育成の企画、開発、提供に関し、学習サービス事業者(LSP:Learning Service Provider) 及び 顧客に対して、質の高い専門的な業務 及び パフォーマンスを得るためのマネジメントシステムを提供することを目的としています。
ISO29990では、“非公式教育”を提供している学習サービス事業者を対象としています。
“非公式教育”とは『<学習サービス>組織化された教育活動で、確立された社会に認知された公式な初等、中等 又は 高等教育制度以外のもの。』と定義され、日本国内では、以下のような学習サービス事業者が対象となります。
<対象となる学習サービス事業者>
- 学習塾
- 語学教室(英会話スクールなど)
- 民間職業訓練機関
- 資格取得を目的とする各種スクール
- 企業内研修を請負う研修事業者
- 生涯学習を支援する各種講座・教室
- その他、料理教室やゴルフレッスンスクール など
また、厚生労働省では、ISO29990を踏まえた「民間教育訓練機関における職業訓練サービスガイドライン」を策定し、民間教育訓練機関への委託訓練、求職者支援制度における認定訓練 及び 教育訓練給付制度における指定講座の実施において、カリキュラム、能力評価、講師等の職業訓練に関する品質の保証や向上に関する取り組みを支援しています。
▼厚生労働省「民間教育訓練機関における職業訓練サービスガイドライン」
http://www.mhlw.go.jp/bunya/nouryoku/minkan_guideline/
2.ISO29990の構成
ISO29990における要求事項は、学習プログラムの企画、開発、提供に関する「3 学習サービス」と、学習サービス事業者のマネジメントに関する「4 学習サービス事業者のマネジメント」の2つで構成されています。
ISO29990の構成 | ||
---|---|---|
序文 | ||
1 適用範囲 | ||
2 用語及び定義 | ||
3 学習サービス | ||
3.1 学習ニーズの明確化 | 3.1.1 一般 | |
3.1.2 利害関係者のニーズ | ||
3.1.3 学習の内容及びプロセス | ||
3.2 学習サービスの設計 | 3.2.1 学習サービスの目的及び適用範囲の特定 | |
3.2.2 学習の活用に対するサポート及びモニタリング方法の特定 | ||
3.2.3 カリキュラムプランニング | ||
3.3 学習サービスの実施 | 3.3.1 情報提供及びオリエンテーション | |
3.3.2 学習のための人的・物的資源の利用可能性の確保 | ||
3.3.3 学習環境 | ||
3.4 学習サービス提供のモニタリング | ||
3.5 学習サービス事業者によって行われる評価 | 3.5.1 評価の目標及び範囲 | |
3.5.2 学習の評価 | ||
3.5.3 学習サービスの評価 | ||
4 学習サービス事業者のマネジメント | ||
4.1 一般マネジメント要求事項 | ||
4.2 戦略及びビジネスマネジメント | ||
4.3 マネジメントレビュー | ||
4.4 予防処置及び是正処置 | ||
4.5 財務管理及びリスク管理 | ||
4.6 人事管理 | 4.6.1 学習サービス事業者のスタッフ及び協力者のコンピテンシー | |
4.6.2 学習サービス事業者のコンピテンシー,パフオーマンス管理,専門能力開発に対する評価 | ||
4.7 コミュニケーションマネジメント(内部/外部) | ||
4.8 人的・物的資源の割り当て | ||
4.9 内部監査 | ||
4.10 利害関係者からのフィードバック | ||
附属書A (参考) 事業計画の内容 | ||
附属書B (参考) マネジメントシステムのレビューのための情報 | ||
附属書C (参考) 予防処置及び是正処置 | ||
附属書D (参考) 学習サービス事業者が有すべきコア・コンピテンシーの例 | ||
附属書E (参考) ISO 29990:2010とISO 9001:2008の対比表 |
3.学習サービスマネジメントシステム(LSMS)の特徴
ISO29990は、サービス規格に規格分類されますが、要求される学習サービスマネジメントシステム(LSMS)には、ISO9001(品質)などと共通のPCDAサイクル(計画:Plan→実行:Do→チェック:Check→処置・改善:Act)を採用することができます。

3章の学習サービスでは、学習ニーズを明確にすることによって具体的な評価目標を設定し、学習成果や提供された学習サービスの評価を実施することにより、学習サービスをマネジメントしていきます。
また、ISO29990では、"学んだことを仕事や生活で活かすことができる(学習の活用)"学習サービスであることを求めており、事前評価、モニタリング、事後評価などの実施が要求されます。
4章の学習サービス事業者のマネジメントでは、内部監査、マネジメントレビュー、是正・予防処置など、マネジメントシステムの基本的な要求事項が定められています。
他のマネジメントシステムにない特徴的な要求事項としては、事業の継続性を確実にするための財務管理やリスク管理(4.5 財務管理及びリスク管理)、講師やスタッフなどに求められるコンピテンシー(力量)の評価・能力開発(4.6
人事管理)が挙げられます。
4.ISO29990認証取得のメリット
ISO29990が求められるニーズを、学習者、学習サービス事業者(LSP)、社会(企業や行政機関など)それぞれの立場で考えてみると、次のようなニーズが挙げられます。
<学習者>
- 学習サービス事業者とのトラブルが後を絶たない
- 学習サービスの質・レベルを判断する基準がない
<学習サービス事業者(LSP)>
- 競合との差別化が困難
- 学習サービスに対する評価方法が不明瞭
- グローバル市場におけるネームバリュー・信頼性の確立が困難
<社会(企業や行政機関など)>
- 学習サービスのアウトソーシングの増加
- 学習サービスにおける、学習者保護の仕組みが不十分
- 学習サービスのプロセス・結果を評価する仕組みが不十分
ISO29990は、学習産業のサービス品質に特化した国際規格であり、認証取得することにより、以下のメリットが考えられます。
<ISO29990認証取得のメリット>
- マネジメントシステム運用により、提供する学習サービスの品質向上と継続的改善を実現
- 受講者・参加者からの信頼度向上
- 国際規格に則ったスクールや研修の運営により、グローバル化への対応が可能に
(日本国外からの受講生の受け入れなども視野に入れた市場の拡大) - 競合他社との差別化
- 組織内での透明性の確保
- 従業員のモチベーションの向上
